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17.10.9

「素晴らしい御縁と絶妙なタイミングが繋がり、いざ舞台化へ出発進行」連載インタビュー第1回 田口智博プロデューサー

舞台『銀河鉄道999』〜GALAXY OPERA〜の初日を迎える6月まで、毎月9日に連載インタビューを掲載します。第1回は、『銀河鉄道999』がバイブルという田口智博プロデューサーに、舞台化実現までの経緯や、そこに込めた熱い思い、キャスティング秘話を伺いました。

 

10年前から舞台化をアプローチしていた

ーー舞台『銀河鉄道999』〜GALAXY OPERA〜を、『銀河鉄道999』40周年のタイミングで上演しようと思った経緯をお聞かせください。

実は10年前から舞台化をアプローチしていましたので、40周年というタイミングで実現出来るのは、偶然のようで必然なのだと捉えています。なので、近年、漫画アニメ原作が続々と舞台化されていますが、その流行りに便乗していないことはハッキリしています。
私は、小劇場出身の劇作家が映像脚本を書くマネージンメント業務もおこなっているのですが、その御縁もあって東映アニメーションさんに御相談を続けてきました。でも舞台化と言っても当初はただ漠然としていて、あの壮大な世界観を表現するのはもちろん大変だろうと思いましたが、この10年、様々な舞台の企画や制作業務に携わって勉強しながら諦めきれずに考えてきました。

ーー『銀河鉄道999』を舞台化したいと思ったのは、特にこの作品に思い入れがあったのでしょうか?

子供の頃から『銀河鉄道999』の漫画を穴が開くほど読んでいて、アニメも観ていました。何といっても衝撃だったのは、1979年公開の劇場版を映画館で観たときです。宇宙をSL機関車が走っている映像が、まるで自分も乗っている感覚がしました。宇宙へ旅をしたいという子供心の憧れがずっとありました。加えて、そのときの名台詞や名場面は、大人になってから「『銀河鉄道999』で言っていたのはこういうことだったのか」と実感することが多々ありました。例えば「悲しい思い出も、辛かったことも、いつか懐かしくなる時があるわ。見ておけば良かったと、思うときが」というメーテルのセリフ。大人になっても心に刻まれている台詞が70年代にあったんですよね。『銀河鉄道999』は私にとってバイブルで、心揺さぶられた多くの人の中のひとりですね。

ーーそれほどに強く刻まれていたんですね。

はい。だからこそ芸能界で仕事をしている身分として『銀河鉄道999』を“一昔前の作品”のままにしたくないという気持ちが強く芽生えてきました。では、私に何が出来る?ドラマや映画、アニメは他の誰かがやってくれるとして、舞台化ならば可能性があるかもしれない、ならばチャレンジしなくてはと即行動でした。

 

中川さんは舞台で鉄郎を表現出来る人

ーーそれが2006年頃のことですね。その企画が今実現するというのは?

舞台で宇宙を表現するにはやはり何かしらの技術的な力が必要なのですが、近年プロジェクションマッピングの技術が発達してきていたので、今ならば出来ると思いました。さらに、私は今回脚本を担当する坪田文のマネージメントも担当しているのですが、主演の中川晃教さんととても親しくさせていただいており、長年何か一緒に企画をやりたいと話していたのが常に頭の中にあったのです。坪田は『銀河鉄道999』が大好きなので、彼女のポテンシャルを活かせる作品だという直感的なものもありました。また、私の立場として二人の企画も絶対に実現させたいと思っていましたので、『銀河鉄道999』の舞台化とのドッキングがタイミング良く成立しました。
中川さんは30代半ばに差し掛かってもとても若い外見ですし、劇場公開版の鉄郎に似ているじゃないですか(笑)そして何よりも『銀河鉄道999』を舞台で表現するならば、主人公の鉄郎を通じて舞台の素晴らしさを伝えられる役者さんにお願いしたい気持ちでした。

ーー最初から音楽劇にしたかったのでしょうか?

最初からというわけではないのですが、『銀河鉄道999』の新しい観せ方を考えたときに、アニメーションの物語をただなぞるのではなく、劇場だからこそ味わえる臨場感など舞台化ならではの工夫と変化を取り入れたいと考えました。何より、中川晃教というミュージカルスターが創造する舞台空間には、人々の心に響くあの歌声は絶対に必要ですからね。

ーー中川さんとの出会いがあってこその音楽劇なんですね。

中川さんや所属事務所の高屋さんとの御縁がなかったら、舞台化自体が夢物語になっていた可能性はありますので、坪田が親交を続けてくれていたことに大変感謝ですよ。

 

不朽の名作を後世に残したい

ーー松本零士先生は、今回の舞台化についてどうおっしゃっていましたか?

零士先生は舞台化の提案を、快く受けてくださいました。実際にこれまでにも1997年に舞台化されていますし、1980年代前半にSKD(松竹歌劇団)でもミュージカル版で上演されていますが、2018年は40周年という節目に加え、1月25日の誕生日に先生が80歳を迎えられる年だったのです。なので、舞台化のタイミングとしてはとてもいいんじゃないかと、東映アニメーションの清水(慎治)さんから助言を頂きました。
キャスティングについては、清水さんに仲介をお願いして、鉄郎役を中川さんにと御説明したうえで先生にも御納得頂いて、2018年の舞台化を進めていくことになりました。実はその時点でまだ劇場も決まっていなかったから、許諾は頂けたものの結構な綱渡りでしたよ(笑)でも結果として、巡り巡って明治座という由緒正しき劇場で上演出来るのですから、これも御縁とタイミングによる良い流れだと信じます。

ーー思いの詰まった40周年になりそうですね。

例えば50周年のときに振り返ってみて、「40周年ってとても盛り上がってたね」と言われたいですよ。『銀河鉄道999』は、残念ながら今の20代以下の若い世代にはあまり知られていないのです。彼らはすごく現実的な世代で、無茶なことには手を出さなかったり、頑張らないことに頑張ったりする。でも過度に夢や希望を持たないというのは、裏を返せば地に足を付けて生きていることだと思います。そういう世代だからこそ、『銀河鉄道999』の台詞や名場面が共感を呼ぶと信じていますし、彼らによってずっと語り継がれることを願っています。

ーーその他のキャスティングは大変でしたか?

『銀河鉄道999』が40周年を迎えた後にどのような展開が待っているのかわかりませんが、この舞台化で私たちは先陣を切る責任があるのです。だからこそ、エメラルダス、トチロー、ハーロック、機械伯爵、リューズ、他すべてのキャラクターのキャスティングには本当にこだわり続けました。この役者とこの役者の共演なら絶対に観たいと心躍らせられるのか?どんな役者が演じるハーロックが、トチローが、機械伯爵が観たいのか?と自分に問いかけて心の声に耳を傾けてから、坪田や製作委員会の皆様に相談もしました。今回のキャスティングに自信を持てている根拠は、“この役者が演じるからこそ面白い“、という御本人の持ち味を存分に活かしてくれると思うからです。その結果として、『銀河鉄道999』の新しい観せ方になれば最高ですね。

 

メーテルとハルカさんの内面が似ていることが決め手

ーー多くの方が気になっているであろう、メーテルについてお聞きします。ハルカさんをキャスティングした経緯を伺いたいのですが、メーテルのキャスティングはどのように考えてはじまったのでしょうか?

メーテルは、とても慎重に考えました。だって、昭和アニメ史が誇る3大ヒロインの1人ですからね(笑)キャスティングの候補には役者のみならず、アイドルとか色んな女性を思い浮かべた10年でしたが、考え抜いた結果、有名無名は関係なくメーテルの本質的な部分に近いと思える女性をあてたいと考えました。それが零士先生に対しても最大の礼儀だと。まずは、東映アニメーションの清水さんに、信じてくださいという思いで「メーテル役をハルカさんでどうでしょう?」とお願いしましたら、「いいと思う」と即答してくださいました。即答の理由は御本人に聞いてください(笑)その後日、零士先生にお会いする機会をつくって頂き、ハルカさんの宣材写真をお見せしたら、「似ているかもしれない」とおっしゃったのです。

ーーハルカさんのどこにメーテルの本質を感じましたか?

2016年に、私がプロデューサーを担当しています東京マハロという劇団に2回出演して頂きました。そのときに感じたのは、ミステリアスの一言でした(笑)その後、徐々に時間を共有していくと、普段はあまり多くを語らないけど頭の中では色々と考え込んでいるし、感情が揺さぶられることを常に求めているのに表面に見せようとしない女性だなと。
考え感じたことをミュージシャンとして歌で表現されているのですが、あの突っつけば脆くも泣き崩れそうな表情からは想像出来ない辛辣な歌詞がまた彼女の魅力でした。東京マハロの公演で一緒に北九州へ行ったときに、空港にメーテルの人形が飾ってあって、それを見ているハルカさんが似ているなと。母親のような包容力がメーテルにはあるのかもしれませんが、ときとして母親は甘ったれた自分の子供にも厳しく言うじゃないですか。そういう部分もすべて醸し出しているのがメーテルだと思うので、ぴったりだと感じました。外見が似ていることももちろんですが、一番の決め手は内面ですね。零士先生にも、近いものを感じて頂けていると信じています。

ーーハルカさんとは『銀河鉄道999』についてどんな話をされたんですか?

『銀河鉄道999』が大好きだそうで、世代ではないのに「全部見ている」って言うんですよ。「メーテルをやりたい?」と聞いてみたら、「やりたいです!」と即答でしたので、あっ、メーテルがここにいたと。
余談ですが、つい最近「あのときのことを憶えている?」とハルカさんに訊ねたら、反応が微妙だったのでもう忘れているのかも(苦笑)。メーテル役は大抜擢で勝負しますが、その分周りは名実を兼ね備えた豪華キャストと言われるしっかりとした役者さんをキャスティングしなければいけないと使命を感じておりました。

ーー楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

会場に足を運んでくださるお客様に、『銀河鉄道999』の世界観を体感して頂きたいと思っています。松本零士先生のコメントに「今もその旅を続けています」とありましたように、世代に関係なく、幾つになっても夢やロマンを追い続けてほしい。人間は死に向かって生きていますが、『銀河鉄道999』にもまさに同じメッセージが込められています。機械の体を手に入れて文字通り「永遠の命」を得ることよりも、限られた人生の中で“生”をより謳歌することを学ぶのです。私は、「永遠の命」とは人から人へと受け継がれていく魂だと信じています。皆さんにも是非「永遠の命」とは何だろうと、それぞれに感じて頂きたいです。そして、劇場の外に出たときに、観て良かったと、もう一度観たいと思えるような作品に、必ず創り上げます。

 

<リレー質問>
連載インタビュー企画として、次回登場予定の方に質問をして頂きました。

☆田口智博プロデューサーから星野鉄郎役の中川晃教さんへ
Q.中川さんにとって、大宇宙規模の夢は何ですか?